(抜粋)

宮入慶之助記念館だより   11号

特定非営利活動法人宮入慶之助記念館 2009(平成21)年 9月30日発行

巻頭言  記念館開館10周年を迎えて今後への提言   理事・名誉館長  多田 功



 今年で、宮入慶之助記念館が設立10周年を迎えました.初代館長である宮入耕一郎氏、それを継いで地道な運営を支えて来られた宮入源太郎現館長、更に活動を支えてこられた宮入家の方々のご努力に改めてお祝いを申し上げます.さらには記念館の社会的な存在意義を評価され、非営利法人化を進めて下さった地域社会、長野県にも感謝する次第です.
 改めてその設立趣旨を考えて見ると、記念館は宮入先生が達成された医学史に輝く事績を紹介し、その人物像を広く知って頂くためのものかと思われます.思えば長野という土地に育まれた一人の青年が、明治という時代に触発され、当時の科学先進国ドイツで科学方法論を学び、世界の医学に大きな貢献をしたのです.信州という風土の特徴が彼の慎重で粘り強い性格や考え方に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう.これからの日本のあり方を考えれば、科学立国しかない我が国にとって、第2第3の慶之助を育て続けなければなりません.記念館はその立場から、国民に科学や医学の重要性とそれを支える教育の重視を訴え続けなくてはならないのです.
 他方、宮入先生の研究対象であった寄生虫学という立場から考えると、世界の発展を妨げている寄生虫病問題の解決に向けての発信をも進めなければなりません.病原体としての寄生虫について訪問者への衛生教育は海外旅行に際し大事なことです.未来を担う子供たちを対象とした自然観察研修、地域住民を招いての環境問題に関する講演会などを主催していくことが必要かと思われます.記念館設立記念に当たって、いささかの所信を述べさせて頂きました.
宮入慶之助記念館:開館10周年と将来       石井 明(理事自治医科大学・名誉教授)      

 記念館が10周年を迎えました。設立以来の諸問題を乗り越えて館長・名誉館長はじめ皆様のご尽力のたまものとお祝い申し上げます。NPO法人に成り、名実共に社会に存在して活躍する時期に入りました。
 日本はほんの50年前まで「寄生虫王国」とさえ呼ばれて、蛔虫、鈎虫を始めマラリア、住血吸虫、フィラリアなどの寄生虫症が大変に多く、人々を苦しめ悩ましていました。
 それが現在では関係の人々の努力により世界でも最も寄生虫症の少ない国の一つとなりました。それには先人の功績があります。特に住血吸虫の問題に関する日本の研究者の功績は世界に誇る最大の事実です。日本の研究成果によって解決の道が開かれました。
 宮入慶之助先生の中間宿主(ミヤイリカイ)の発見とそれに続く生活史の解明は問題解決の出発点となりました。この功績の大きさは当時ノーベル賞の候補に上がった事でも判ります。人獣共通感染症である難しさを乗り越えるためにミヤイリカイの対策が重要な課題と認識され、以後ずっと努力が重ねられ日本では「安全宣言」が出されました。これは世界に例のない事で世界から高く評価されています。
 宮入先生の功績を記念し後生に伝える事の重要性を認識し、さらに今後に役割を果たす事が記念館の仕事になります。
 寄生虫学の関係組織としても日本で重要な役割が期待されています。さらには生物学、環境問題にも大きな期待がかかっています。種の多様性、種の保存は生物資源との理解となっています。今までミヤイリカイは病気のために対策されてきましたが、病気の亡くなった今は種の保存を計らねばなりません。日本のミヤイリカイは山梨県に残るのみとなりました。中国やフリッピンの中間宿主とは違う日本のミヤイリカイは世界の貴重な種として保護、保存されねばなりません。そのために最も有効な道は「天然記念物」に指定される事です。各方面に働きかけて資源としても重要なミヤイリカイの保護、保存に皆様のお力をお願いします。
 若人の理科教育、生物学の教育にミヤイリカイの果たす役割が有ると思います。水陸両棲のミヤイリカイはフリッピンの中間宿主が水棲であるのと違っています。この研究は生物学的に大きな研究課題であります。
 環境問題としてのミヤイリカイの果たす役割にも注目したいと考えます。橋本龍太郎元総理は住血吸虫対策でミヤイリカイに殺貝剤を使用した事を環境問題としては反省しなければならないと述べています。里山にホタルが舞い、ミヤイリカイが生息できる環境を準備する事は日本社会が抱える今後の課題です。
 記念館の今後のご活躍を期待いたします。
宮入慶之助記念館開館10周年記念展示会と講演会    

<記念展示会> 「宮入慶之助とミヤイリガイ展」
 当館は平成11年に現在の長野市篠ノ井西寺尾に開館して10周年を迎えました。
この節目にあたり、宮入慶之助の業績をより多くの市民の方々に知っていただけることを願い旧松代藩の城下町松代で展示会を開催いたします。同時に、当館が現在まで収集した宮入慶之助に関する最新の資料を一堂に展示してこの10年の活動の成果をご覧いただくことにしました。

1.開催場所  ギャラリー松真館(しょうしんかん)
  長野市松代町松代(石切町)1220 TEL/FAX 026-278-1220
*上信越自動車道長野ICより車にて7分  駐車場10台
*長野駅善光寺口より川中島バス「古戦場経由松代行」にて約40分「松山町入口」下車徒歩1分 松代藩の城下町―松代の商店街に近く、松代藩の中級武士の屋敷を改装してギャラリーとしたもので、建物は「登録有形文化財」になっています。
 2.開催期間  平成21年10月24日(土)より11月4日(水)まで
 3.入場料   無料
4.開場時間  午前10時より午後5時まで

<記念講演会>「日本住血吸虫症の現在を考える」
 宮入慶之助が大正2年に日本住血吸虫の中間宿主貝(ミヤイリガイ)を発見し、この寄生虫の生活環を解明したことにより、官学民の関係者の長年の努力で平成時代になって各有病地で安全宣言が発せられ、日本では住血吸虫症が制圧されました。しかし、世界ではまだ多くの患者が苦しんでいます。地球温暖化や社会のグローバル化により各地での本症の拡大が気になる状況があります。
この歴史を学び住血吸虫症を取り巻く現状を知るために、この分野で活躍する専門家を招いて解説いただく講演会を開催いたします。

1.  開催日時   平成21年11月14日(土)  13.00より15.30まで

3. 会 場    ホテルサンルート長野東口<サロンドコート> 長野市栗田北中995-1
4. 講演プログラム

「日本住血吸虫症の臨床と山梨県民の係わり」 林 正高(市立甲府病院元神経内科長)
   講演者は、昭和9年旧満州大連市に生まれ、信州大学医学部卒業。
   
山梨県およびフィリピンにおける本症の治療と制圧指導の最前線での経験をもとに、この病気の恐ろしさを語る。

  
「住血吸虫症制圧の壁」   太田 伸生(東京医科歯科大学教授)
   講演者は、昭和26年福岡県に生まれ、信州大学医学部卒業。
   治療薬やワクチンの開発研究や中国での制圧指導の経験をもとに、実例を紹介しながらこの病気の制圧の難しさを語る。

 「日本住血吸虫症制圧の歴史」 石井 明(自治医科大学名誉教授)
   講演者は、昭和12年高知県に生まれ、東京大学医学部卒業。
   日本住血吸虫症を根絶し安全宣言に至るまでの歴史と現状について語る。

 「宮入慶之助―信州人の系譜から」  多田 功(九州大学名誉教授)
   講演者は、昭和11年旧満州に生まれ、九州大学医学部卒業。
 
  
九州帝大医学部衛生学講座の初代教授であった宮入慶之助が生れ育った信州という風土に演者は興味を持ち、多少のエピソードと共に論考を加える。

5. 入場料  無料
6. 定員   50名
参加申込は、宮入慶之助記念館 TEL/FAX 026-293-4028まで。定員になり次第締切り。

 中澤慶之助先生の思い出              宮入聰一郎      

 昭和37年、私が大学三年の時、就職に有利なゼミだからという不純な動機で選んだゼミナールの教授は、中澤慶之助先生と言います。先生は東京高商(現一橋大学)ご出身の経済学博士で、当時63歳位だったと記憶しています。ゼミ生となり、先生に恐る恐る「私の祖父と同じ名前の慶之助とおっしゃいますが、実は、私、宮入慶之助の孫なんですが、、、。」とお尋ねしたところ、なんと、中澤先生の父上が東大医学部卒で祖父と同窓生であったとのことでして、偉大な業績を残した祖父の名前を貰ってつけさせていただいたとの事でした。中澤先生がまだ一橋の学生時代に祖父慶之助に会った時、「君は一橋だから医者より外交官になったらどうかね。」という会話をした記憶があるとのことでした。教授は、「福岡のここで、ゼミ生である君と会うなんて、本当に奇遇だな~。」と双方が非常に何かの因縁に導かれたものだと驚いた次第です。
 その後、夏休みには、先生のご自宅にお伺いしたりして、経済学(貨幣論)はもとより、俳句を習ったり、沢山ある書籍の整理や片付けのお手伝いをしましたが、中澤先生は、出来の悪い孫だな~と思われたのではないでしょうか。お聞きしたくても、もう故人となられてしまいました。

   記念館活動記録      

     平成21年6月6日に佐賀市アバンセで開催された第110回日本医史学会学術大会で、館長が「宮入慶之助―日本住血吸虫中間宿主の発見」という演題で発表しました。
     平成21年6月13日に特定非営利活動法人宮入慶之助記念館の平成20年度通常総会が開催されました。出席者は委任状含め14名で、平成20年度事業報告、平成20年度収支報告、平成21年度事業計画、定款変更、役員再任の5議案について審議し、原案どおり可決されました。
     平成21年8月22日に長野市松代町大英寺信徒会館で開催された特定非営利活動法人夢空間松代のまちと心を育てる会主催による「松代学講座2009 松代の歴史と文化を学ぶ」にて館長が「宮入慶之助-日本住血吸虫の中間宿主カイの発見」と題して講演しました。

 編集後記


    多田先生と石井先生から10周年を迎えての貴重なご提言をいただきました。
    開館10周年記念事業がようやくまとまりました。いろいろ考えましたが、結局本文記事でお知らせしたような内容に落ち着きました。単なる祝賀行事ではなく、それなりに意味のあるものとして、今の我々の力で出来る精一杯の行事にしたつもりです
 皆様のご参加をお待ちしております。
    あっという間に10年が経ちました。ここまで来れたのも皆様方の温かいご支援と励ましのお陰です。ありがとうございました。
    今後とも、小さくても永続性のある活動を心がけていきたいと思っています。