住血吸虫とミヤイリガイ

◆日本住血吸虫

日本住血吸虫は、人間や各種哺乳類の血管内に寄生し、成虫は門脈系静脈内に雌雄が抱合して寄生します。発熱、腹痛、脾腫、腹水貯留、虫卵による肝繊維化など、甚だしい症状を与えます。他の人体寄生吸虫類と異なり、雌雄異体で、雄は体長9~18mm、乳白色で、前体部に2個の吸盤があります。雌は15~25mm、暗褐色で線虫のように細長く、前体部に微弱な2つの吸盤を持ちます。中国、東南アジアにも分布し、各地で悲惨な風土病として多数の患者を苦しめています。
当記念館の標本を実際にご覧になると分かりますが、「こんな小さい虫が....。」と思うほど、注意して観察してみないと分からない虫です。

 

日本住血吸虫雌雄抱合図
(『新寄生虫病学』南山堂 1979より)

◆独特の症状を示す地方病の病原体は?

広島県福山の医師、藤井好直が1847年(弘化4年)に記した「片山記」が日本住血吸虫症に関わる最初の記録です。1904年(明治37年)、桂田富士郎(岡山医学専門学校教授)は猫の門脈から虫体を発見し、これを日本住血吸虫と命名し、これで感染源が特定されました。その後、藤波鑑(京都帝国大学医学部)は人体剖検例でこの虫体を発見しました。

『片山記』 (昭和29年 沖波實の復元による。)

◆感染経路は?

病原体は判明しても、感染経路は全く闇の中でした。一体、人や動物はどこからこの寄生虫に感染するのだろうか。はじめは、飲料水が疑われました(経口感染)。
牛に長靴を履かせたり(経皮感染であるか?)、口袋をつけたり(経口感染であるか?)、ある医師は流行地の田に自ら素足で入り、自分の体で感染実験をするなど、今では信じられないような試みが重ねられた末、日本住血吸虫の虫卵は孵化するとセルカリアに成長して、水中を遊泳し、哺乳類の皮膚にとりついて皮膚から侵入(経皮感染)することが分かってきました。

日本住血吸虫生活環
(山梨県制作ポスター)

◆中間宿主ミヤイリガイの発見!

セルカリアが経皮感染することがわかっていても、虫卵の孵化したものが、セルカリアになるまでが解明されていないため、この病を防除する方法がなく、日本住血吸虫の生活環解明は、悲惨な風土病に苦しむ住民の命の叫びでした。多くの研究者達の日夜を分かたぬ苦闘の中、九州・久留米地方を地元とする京都帝国大学福岡医科大学医学部(後の九州帝国大学医学部)の宮入慶之助教授と助手の鈴木稔は、同地方に流行していた日本住血吸虫病の惨状を目の当たりにし、この病気の根絶のために研究に着手しました。
宮入慶之助等は綿密な研究の末、1913年(大正2年)に「日本住血吸虫卵が糞便を介して水中に入り、孵化しミラシジウムになり、中間宿主であるミヤイリガイに侵入し、ミヤイリガイの体内で成長して、セルカリアとなって哺乳類の皮膚から侵入し、成虫となる。」との結論を得て、最終的に生活環を解明しました。
この発見によって人類が日本住血吸虫病の防除が出来るようになったという理由ばかりでなく、全世界に棲息する同様の住血吸虫防除の端緒になった画期的な発見でした。世界の住血吸虫病に悩む人々にとっては、計り知れない意義のあることでした。

中間宿主ミヤイリガイ

 

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