住血吸虫症は、現在78カ国に感染が報告されており、2013年の時点で少なくとも2億6千万人に継続的な集団駆除対策が必要であるとされ、WHO(世界保健機関)は克服すべき疫学上重要な寄生虫疾患としています。
◆人体寄生住血吸虫種と地理分布
種 | 分布 | |
腸管系住血吸虫 | マンソン住血吸虫
Schistosoma mansoni |
アフリカ、中東、カリブ海
ブラジル、ベネゼエラ、スリナム |
日本住血吸虫
S.japonicum |
中国、インドネシア、フィリピン | |
メコン住血吸虫
S.mekongi |
カンボジア、ラオス | |
S.guineensis
/S.intercalatum |
アフリカ中央部の熱帯雨林地帯 | |
尿路系住血吸虫 | ビルハルツ住血吸虫
S.haematobium |
アフリカ、中東、コルシカ島 |
日本住血吸虫症は、ミヤイリガイの撲滅事業に伴い、1978年(昭和53年)以降新たな発生は報告されていません。しかしながら現在でも住血吸虫症の輸入症例や肝臓や腸管組織に残存した虫卵が検出される陳旧性症例(より時間が経過した症例)を検出することもあります。
◆2010~2014年に報告された日本における住血吸虫症症例
種類(例数) | 症例分類(例数) | 出身国(例数) | 感染状況(例数) | 推定感染地(例数) |
日本住血吸虫症(54) | 輸入症例(10) | 日本(1) | 陳旧性(1) | 中国(戦時)(1) |
フィリピン(9) | 活動性(7)
不 明(2) |
フィリピン(7)
フィリピン(2) |
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国内感染(44) | 日本(44) | 陳旧性(44) | 筑後川流域(4)
利根川流域(3) 沼津市 (3) 山梨県 (22) 不明 (12) |
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ビルハルツ
住血吸虫症(4) |
輸入症例(4) | 日本(3)
ガーナ(1) |
活動性(3)
活動性(1) |
アフリカ (3)
ガーナ (1) |
マンソン
住血吸虫症(3) |
輸入症例(3) | 日本(3) | 活動性(3) | ナイル川流域(3) |
2010~2014年の5年間に報告された日本における住血吸虫症症例を見ると、日本住血吸虫症54例のうち、10例が輸入症例、日本人の日本住血吸虫症45例(中国からの輸入症例を含む)はすべて陳旧性、アフリカで感染したと推定されるビルハルツ住血吸虫症が4例、マンソン住血吸虫症が3例となっています。日本の輸入症例では総じて軽症例や症状に乏しい例が多いとの報告があります。
近年の国際化により世界各地へ旅行や仕事で活動する邦人が増え、それに伴って輸入感染症の増加が懸念されています。有病国であるフィリピンやアフリカからの帰国後に住血吸虫症に罹患している例が報告されており、日本において住血吸虫症は過去の病気ではないと認識しなければなりません。
(桐木雅史・林尚子・千種雄一「国境を超える感染症 住血吸虫症」Dokkyo Journal of Medical Science 42(3) 2015年による。)